2016年09月25日

京アニの山田尚子さん 響き合う世界

映画『聲の形』を見てすごく感動してきました。
あ、見たのは先週水曜日なんですけどね。

それでもう一回見たいな〜なんて思ってYouTubeで『聲の形』を検索したら、
多分京都アニメーション公式の、ドキュメンタリーというか『聲の形』の公開記念特番が出て来まして。

それを見て、山田尚子監督、若!!とか思ったんですね。
監督は歳行ってるもんみたいな自分の持つイメージも逆照射されたわけですが(笑)

それでにわかに山田尚子監督に興味が出てきたんですね。山田さんが『たまこまーけっと』とか『けいおん!』の監督をされていたのは覚えていたんですが、どんな人かってあんまり考えてこなかった。

でも、実際に動画で姿を見て、なんか言ってるのを聞いて(失礼!笑)、「どんな人なんだろうこの人」って素朴に興味がわいてきたんです。

それでやっぱり現代人の武器はwikipediaじゃないですか。そこでwikipediaの記事を読んでみる。ふむふむ、面白い。

特に、wikipediaで引用されているこの記事
「たまこの年代の子たちは、呼吸しているとき、瞬きしているとき、もうすべての瞬間が“青春”なんです。自分が17歳のときはそれが青春とは意識せずに生きてきましたが、それは実に感動的なことで。それを撮りたいという思いでこれまで作品づくりをしてきました。」(山田尚子監督)
という発言にすごく共感できました。監督のすごく重要な意識が詰まっているように思えました。

さらに、京アニのスタッフブログの山田監督と思しきパピコさんの記事を読むと、すごく映画を観られる方なんだなということがわかります。セルゲイ・パラジャーノフとかホドロフスキーとかの名前が出てきます。
なんか、意外じゃないですか?(失礼!笑)
こちらのブロガーの方のイベントレポートによると、僕は知らん監督ですがヤン・シュヴァンクマイエルにも影響を受けたとか、、、(勝手にリンクすみません。問題あれば消します)


なんかこういう風にいちいち誰が誰に影響を受けた、みたいなことを語りだすのはどうかと自分でも思う部分もあるんですが(笑)
私だって幼いころクレヨンしんちゃんに多大なる影響を受けてますが、じゃあいま何か生活にクレシンが反映されてるかというとそこまでそうではないと思いますし(笑)

そういう、誰々は以外にも誰々の影響を受けている、みたいなのも話半分に、、ですけど、

山田監督はシュヴァンクマイエルとかホドロフスキーみたいな強烈なやつらから(笑)強く影響を受けつつも、ものすごくまっすぐで、呼吸の音と体温がある日常をすごーく見事に描いてると思うんです。

別に結論を用意している記事ではないですし、見切り発車で書いてるだけなんでだから?って感じかもしれませんけど、なーんかそういうのって面白いな〜なんて思っちゃいました。

山田監督についてはこれからも調べたいと思いました(小並感)

えー、以上です。笑


posted by おぎゃん at 16:58| 東京 ☀| Comment(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

『修学旅行』

久しぶりに小説を書きました。






『修学旅行』




 「私、ニンシンしてるんです」
と彼女はつぶやいた。その時、僕の頭にはちょうど古典の「べし」の活用が響いているところで、彼女のつぶやきは一つの活用のように僕の中に滑り込んできた。驚いて彼女の方を見やると、彼女は相変わらず本のページを繰っていた。廊下からじっとりとした風がひとかたまりやってきて、僕と彼女の二人分の髪と二枚のプリントだけをゆらして、ひそやかに窓から抜けて行った。
 「べし」の活用の残響も風にさらわれて、僕はふと我に返った。聞こえていたはずのセミの声が耳にもどってくる。それで……ニンシン?

  
         ☆


 楽しみにしていた修学旅行を前にして、僕は十六年の人生で初めて夏のインフルエンザにかかった。京都の『るるぶ』を抱いて眠るほどの僕にとって、この宣告は死にも等しかった。どう順調に見積もっても、二泊三日の修学旅行のうち登校が許可されるのは三日目からで、そうすると僕が京都に滞在できるのはわずか二時間だった。二時間って……何ができますか。
 普段、女の子のことかサッカーのことくらいしか考えていない僕だったが、インフルエンザで四十度の高熱と頭痛に見舞われると、そういうことはすべてどこかへ霧消した。あの子はどんな体でどんなセックスをするのだろうとか、どういう下着をはいているのだろうとか、そんなことは本当にどうでもよくなってしまうのだった。頭痛が本当にひどいときは、「頭痛がするなんていうけれど、本当に僕は頭痛を感じているのだろうか……?むしろ僕自身がもはや頭痛になってしまったのではないだろうか……?」というような懐疑があたまをもたげ、さらに頭痛をひどくした。吐き気やだるさ、のどの痛み、そういう症状が一つ現れるたびに、僕っていったいなんなんだろう、と考えてしまい、高熱で朦朧とする中で、僕は哲学者になれる……と、うなっていたらしい。
 しかし、やはり生き物とは不思議なもので、サッカー部でもともと体力に自信のあった僕は、出席停止の解かれる前日(つまり、みんなにとっての修学旅行二日目)にはほとんどいつも通りの体調に回復した。日課のトレーニングを再開し、ランニングコースはいつもより一分早く走り、クラスの女の子を想像して二回オナニーをした。日常のすべてが、もとあった形で僕のもとに返ってきた。



 修学旅行にさまざまな理由で行けない生徒への配慮から、学校では特別講習が催されており、これに出席することで欠席扱いを免れることができるようになっていた。もっとも、今年休んでいるのは僕だけとのうわさだったので、特別講習の一日目、二日目は実施されていないと思われた。



 「はるかぁ、大丈夫かぁ」
出席停止が解かれる前日の夜(繰り返すが、修学旅行二日目の夜である)、サッカー部の顧問であり国語教師である遠藤から電話があった。遠藤は他学年のクラスの担任だったから、修学旅行中も学校に残っているのだった。
「はるか、大丈夫です」
と僕は答えた。
「うん、元気そうだなぁ。お前本当にインフルだったのかぁ?」などと遠藤は笑っている。
「明日は学校これそうかぁ?」
「ばっちり行けると思います」
「ほーかほーか、それなら、一時間目から四時間目の時間まで講習があるから頑張ってくるように。来ないと欠席扱いになるから気をつけろよぉ」
僕は、はい失礼します、と答えて電話を切ろうとした。すると遠藤が、あ、ちょっと、と受話器をおろす僕の手を引きとめた。
「特別講習、実はもう一人、一組の水口っちゅう女の子がおるから、一応マスクしてきてくれるかぁ?」
僕は、はいわかりました、と答えて電話を切った。自室への階段を上る最中、僕は一組の水口、女の子、という言葉を反芻していた。誰だかまったく思い出せない僕にとってそれは、見知らぬ料理のように音だけが香ばしく響くのだった。



 特別講習は、指定のプリントを進める自習だった。欠席扱いを免れるためだけのもので、それ以外の目的はすべてそぎ落とされた無駄のない洗練されたもので、逆に言えばそれ自体が無駄のようなものだった。
「修学旅行の気分を少しでも味わってほしいと思ってぇ、今回は京都のとある寺を舞台にした古典を選んだからぁ、じっくり解いて、四限終わりに提出するようにぃ」
遠藤が禿げあがった頭をぺしぺしと自ら叩いて説明を終えると、僕らは二人、無言の教室に取り残された。プリントというのも、どう長く見積もっても二時間目には終わってしまうようなものだった。
 水口、というのはやはり僕の記憶にはない生徒で、見たところおとなしそうだった。頭を動かすたびに小さいポニーテールが揺れ、やわらかい両頬の輪郭の上を縁取るように、細く鋭利な前髪が下に向かって真っすぐおりていた。
 僕は窓の外の入道雲が発達していくのを見つめながら、一体この二日間、この水あめのような重たい時間を彼女はどうしてきたのだろうと思った。そして、一見健康そうに見える彼女はなぜ修学旅行に行けなかったのだろうとも不思議に思った。僕がゆっくりと時間をかけて問題を解き、やっとプリントの裏面に進むころ、水口は本を読み始めた。
 白くて切れ味の良さそうな指が、静かにページを繰っていた。僕は自然と、その白い鋭利な指が後ろ手にブラジャーのホックをはずし、パンツをおろすことを想像した。つんと澄まして、本を繰ることしか知らないようなあの指先が、絶対に日常の中で行っているはずの動作だった。そうした日々の秘密を濃縮した指先は、先ほどにもまして妖艶に見えた。
 突然、遠くから低い音が聞こえ、次の瞬間大きな風がうねりながら教室を旋回していった。いくつかの掲示物が黒板から引きはがされ、床を滑った。教室のすべてのものが落ちついて自分の場所を見つけた時、水口は「私、ニンシンしてるんです」と言った。



 最初は、読んでいる小説のセリフでも口をついてしまったのかと思ったが、彼女は本を伏せて、こちらを真っ直ぐに見て、もう一度「ニンシンしてるんだ、私」と言った。良く見ると、目の下にソバカスがあった。
「ええと、それはどういう……?」僕自身が何を問いたいのかもわからないまま、言葉は勝手に泳ぎだしていた。
「修学旅行を休んでる理由」と水口は言った。
「神崎君は、風邪……?」
僕は、「インフルエンザ」とだけぎこちなく答えた。僕はまだ、ニンシンという言葉を噛み砕けずに、口の中でもごもごと転がしていた。
「ニンシン……?」
僕は噛み砕けなかった言葉を、ついにそのまま吐き出してしまった。僕の唾液にまみれた言葉を彼女はうまくかわして、席を立った。
「飲み物、買ってくる。なにか飲む?」と彼女は少し微笑んだように見えた。
 彼女は、自販機のアイスココアとグレープフルーツジュースを両手に下げて帰ってきた。僕と水口がプルタブを起こすと、カシュッという音が二度響いた。教室の誰も知らないどこかが、そのひそかな反響を返した。
僕らはしばらく沈黙した。僕は、次第に大きくなってゆく缶の結露をじっと眺め、意味もなくそれに触れて手を濡らしてはその水を指先で確かめたりしていた。
「この結露って教室にあった見えない水分だよね」と僕はなんとなく沈黙を破った。
「そうだね」と彼女は缶の周囲を撫でた。
「じゃあきっと、僕の呼吸に含まれてる水分も少し含まれてるということになるよね」
彼女は黙って、僕と同じように指先で露をもてあそんでいた。
「息に入ってる水分って、きっともともとは血液だと思うから、僕の全身をめぐってたってことになるよね」
彼女は、頬の横に垂れている前髪を指先でゆっくりと耳に掛けた。その時、露がすこし彼女の耳を濡らすのが見えた。
「じゃあ、僕のつまさきから脳みそまで回った水が、ここにあるかも、ということになって、少し気持ち悪く……ない?」
僕自身何を言っているのだろう、と思いながら無責任に話を終えた。
「じゃあ、私の赤ちゃんをめぐった水分も、そこにあるかもしれないってことだよね」
と彼女は楽しそうに言った。
「びっくりした?妊娠って聞いて」
僕は少し悩んで、結局よくわからずになんとなく頷いた。
「これを知っているのは、私と、先生と、お母さんだけ。あ、父親はもともといないから」
彼女はうんざりした様子で、「でも、大人ってなにかにつけて深刻になりすぎると思わない?」と言った。
「というより、深刻なふりをしているって言えばいいのかな。それも違うかもしれないけど。本人たちはもちろん、深刻なつもりで深刻なんだけど。でも、私はそれって本当の深刻じゃないと思う。みんなが深刻って言うことを、紋切り型にはめて深刻な風に言ってるだけ。相手は誰なんだ、とか産むつもりなら経済的にどうするのか、とかさ。大人って、自分では深刻になっているつもりなのに、本当に深刻なところに行けなくなった人たち。そんな気がしない……?」
僕はそれを聞きながら、ぼんやりと数日前の頭痛や吐き気のことを思い出していた。
 彼女が椅子をひいて席を離れると、遅れて濃紺のスカートの裾が彼女についてくる。彼女は小さな風のかたまりを連れてきて、僕の席の前で立ち止まった。アイスココアの缶の表面を水滴が滑り、グレープフルーツとなにかの甘い香りが一瞬に過ぎていく。僕は初めて彼女の全身を眺めた。思ったより背が高く、重々しい膝丈のスカートと糊のきいた白い半そでシャツは、シャープに彼女を教室から切り取っている。「女子高生」というきちんとした枠組みが、彼女を丁寧に包み込んでいる気がした。僕の頭のうちでは「ほんとうにしんこくなところ」という言葉が、古典の活用のように無意味に残響していた。
 それから、彼女はおもむろにスカートからシャツの裾をだし、シャツをへその上までまくり上げた。僕は自分の心臓の鼓動が早くなり、下半身に血液が集まっていくのを感じた。白い陶器のようなお腹に、青っぽい血管がいくつか走っていて、当たり前だけれど、呼吸のたびに大きくなったり小さくなったりしている。この人も生き物だ、と僕は至極当たり前のことをぼんやり思った。言われてみれば、膨らんでいるような気もする、という程度で、僕が考えていた妊婦さんのお腹とは程遠いものだった。「触ってみて。セクハラとか言わないから」
 僕は夢の中のようなリアリティを欠いた気分で、何か大きなものに導かれるように彼女のお腹に手を伸ばした。それに触れると、これまた当然だけれど温かくて、すこし産毛があって、すこし汗ばんでいた。なぜだかわからないけれど、その時僕の頭にはこのごろずいぶん熱心に読んでいた京都の茶庭の風景が広がった。遠くから、彼女の「わかる?」という声が、神の啓示のように響いた。



と、突然教室の扉が開く音がした。遠藤が青くなって入ってくるのが見えた。
「おいおい、ちょっと勘弁してくれよぉ。事情は知ってるから、お前らの気持ちもわかるけど、知らない先生が見たらそれ普通にアウトなやつだからなぁ?はるかも、事情が事情だからって興味本位でほいほい女の子のお腹とか触っていいわけないだろう?今回は見逃すけど、お前はもっとデリカシーを身につけろ、な?」
水口は、すみません、ちょっと自慢したくって、と先生に向けて笑みを浮かべた。こういう顔もできるのか、と僕はいろいろなことに呆然としながら、すいません、という言葉を絞り出しただけだった。
遠藤が、「本当に頼むよぉ。また見に来るからなぁ」と言って出ていくと、彼女はため息をついて窓の外を眺めやった。それから、
 「古典の活用なんかを覚えている間に、本当に深刻なことを忘れた人たち。あたしはそんなのになりたくない」とつぶやいた。


 
 「神崎君は、今日の午後ヒマ?」
本当は部活に出てもよかったのだけれど、僕はヒマだと答えた。
「修学旅行に行けなかったから、今日の午後を使って私たちだけの小さな修学旅行に行くっていうの、どう」
僕は机の上でぬるくなったアイスココアを一気に飲み干した。
「どういうこと」
すると、彼女は先ほどと打って変わって妙に子供らしく目を輝かせて、「お互いにこの夏行きたい場所を一つずつ巡る、とかさ。もちろん、午後いっぱいで行ける範囲で」
僕も今回修学旅行に行けなかったことでずいぶんとフラストレーションがたまっていたし、明日からいつもの日常が、それも周囲が一段僕よりも高揚した場所で始まることを考えると、それも悪くないと思った。



 学校の最寄駅から、いつもと反対方向の電車に、今日まで顔も知らなかった女の子と乗り込んだ。電車が反対方向に発車すると、日常から自分が出ていく実感が急に降りかかってきた。なんだかわくわくする、と水口は声を弾ませた。僕らの他に誰もいない車内を、電柱の影が何度も走り抜けていった。隣にいる水口の白いふくらはぎから、なんとなく官能的な予感みたいなものが発散していて、それに気づくたび僕は遠くの風景を眺めやった。
 僕はこのところ京都のことばかりを考えていたので、危うく「京都に行きたい」と言いかねなかったが、すこし考えて、しばらく海に行っていないことを思い出して海に行きたいと言った。彼女は廃墟に行きたいと言った。それらを組み合わせて、海の見える廃墟に行くことに決まった。僕と水口は、ケータイを使って近くの廃墟を調べ、海沿いにある民家の廃墟を見つけ出した。学校の最寄駅から在来線を使って二時間弱のところだった。
 水口と僕はほとんど沈黙していた。しかしそれは沈黙と呼ぶには、ずいぶん充実した感触の、気持ちのいいものだった。
 しばらくして、気になっていたことを訊いてみることにした。
「水口にとってほんとに深刻なことって、何」
しばらく水口は考えて、
「話すと長いし、多分伝わらないことなんだけれど……」
彼女は困ったように、垂れ下がった前髪をつまんで唇に当てた。気まぐれに入る冷房が、ごぉっという音を立てて車内を冷やし始めた。
「まず、神崎君が本当に気になっていること、本当の質問から答えるね。それは、私が誰と、どんなセックスをしたかということ。そうでしょう」
心臓が、早くなるのが分かった。
「誰にも信じてもらえないけど、私は誰ともセックスしてません。朝起きて朝ご飯を食べて、歯を磨いて、制服を着て学校に行って、うとうとしながら授業を受けて、家に帰ってだらだらして、お風呂に入って、まただらだらして、寝て、朝が来て、そしたら妊娠してた。私はセックスしたことないし、処女。だからセックスにちょっとあこがれつつも、やっぱり怖さもあって、みたいな普通の女子高生。それが妊娠してるんだから、世界って壊れてる」
僕は唖然として、彼女の横顔を見た。
「それで次の質問に答えると……これはもちろんこのことと大きくかかわりがあるんだけれど……」
彼女はまたしばらく考え込んだ。
「神崎君も私も、まぁ元をたどれば精子と卵じゃない。それで、例えば一七年前、なにかの加減で、神崎君をいま形作ることになる精子の隣を泳いでた精子が競り勝ってたら……どうなったと思う?」
「僕は生まれなかった」
と僕はすぐに答えた。
「そこなの……本当に神崎君は生まれなかったのかな……?つまり」
彼女は上を向いて脚を伸ばし、うーんとうなった。
「もしかしたら、隣の精子が勝ってたとしても、能力とか体は違うけど、神崎君だったかもしれない……なんて思ったことはない?」
身体や能力は違うけど僕……?僕はしばらく考え込んだ。と、突然水口が僕の手の甲をつねった。
「痛いでしょ」といたずらっぽく微笑んだ。
「この痛みを感じてる神崎君は、能力や体に関わらず存在するなにかだと思うの。でも、そういう深いところにいる神崎君や、私の事って誰も気づかないわけ。頭のよさとか、運動ができるかどうかとか、そういう目に見えるところで世界は回ってるから――」
電車はトンネルに入った。轟音でしばらく声も聞こえなくなり、水口は口を閉じた。トンネルを抜けると、静寂と陽の光が車内を満たした。
「深刻なことってそういうことだと思う。私っていうソンザイの問題……?」
僕はしばらくそれについて考えた。



 海が見えてきた。水平線を突き破って成長している入道雲を僕らはぼんやりと眺めた。
 もうすぐ目的地の駅、というころに電車は雲の影におおわれた。遠い水平線まで、低く垂れこめた複雑な陰影の雲が覆っている。
「ざーんねん、雨が降りそう」と彼女は無邪気な声をあげた。
「じいちゃんが言ってたんだけど」と僕は思い出したことついて話し始めた。
「クマが出た、とかハチが出た、なんていうのは人間が自分勝手にクマやハチのいる場所に入ったからであって、決してクマが出たんでも、ハチが出たのでもないって」
「雨も似てるってこと?」と彼女は言った。
「そう。なんか似てるなって。僕らが雨のいるところに勝手に来てしまったってこと」
「きてしまったね」
彼女はふふ、と楽しそうに笑った。
その時電車のドアが開いて僕らはプラットフォームに降り立った。そこは、これから来る雨の強い香りに満ちた場所だった。
 無人改札をでると、すぐに雨がぽつぽつと降り始め、僕らが目的地を調べている間に見たこともないようなどしゃ降りになった。僕も彼女も、革のスクールバッグを傘代わりに、海沿いの国道を廃墟に向けて走った。遠くで海が鳴り、すぐそばを大型のトラックが走り抜けるたび僕らを濡らした。
 目的の廃墟は十分ほど走ったところにあった。色あせた赤い屋根に、白い壁、生きているのか死んでいるのかわからないヤシの木が周囲に植わっていた。もともとは海が見えるカフェとして評判のお店だったらしい。「裏口の鍵が壊れていて、初心者さんでも簡単に入れちゃいますよ☆」という、廃墟のポータルサイトのクチコミを頼りに、僕らは一目散に裏口へ走った。果たして鍵は開いていて、中へは簡単に入ることができた。
扉を閉めると雨音は遠く退き、かわりにカビの香りがつんと鼻をついた。破れた椅子、割れたランプ、朽ちた柱、すべてが時間の遠くに忘れられて、僕らの荒い呼吸だけがあたらしかった。酒のビンやグラスが割れたものが散乱していて、それらをなるべく避けながら歩き、たまにガラスの破片を踏むと、僕らのローファーは澄んだ音を響かせた。「特に二階からの眺めが最高です」という情報をもとに、僕らは二階への階段を恐る恐るのぼった。二階は、花火の燃えカスが散乱しているだけで、ガラスはなかった。彼女は窓の方に歩み寄って、雨で霞んだ水平線を眺め、ペンキがはがれて腐りかけた窓の木枠を愛おしそうに撫でた。雨に濡れて白いシャツが体にぺったりと張り付いた彼女の背中にはピンク色のブラジャーの線がはっきりと見えた。しかし不思議なことに、彼女のふくらはぎや指先から感じたはずの官能的な気分が、いまやどこかへ吸い取られて消えてしまっていた。
 「ふふ、死んでる」と彼女は言った。僕も近くにある柱に触れた。確かな死の感触があった。
 海は遠く深い音で鳴いている。
「命の母なんだよね海は。海は……生きている?」と彼女は言った。
「生きてるんじゃない」と僕は答える。
「それで、この建物は、きちんと死んでる。それから僕らは……生きてる」
しばらくすると、無数の雨漏りが天井に染み出し、リズミカルに床を叩き始めた。その音は、世界のほんとうに深刻な場所の一部を示している気がした。
 彼女はおもむろにスカートの前の部分をまとめて持ち上げ、ぎゅっとしぼった。走ってきたときに集めた雨水が、床にまとまって落ちた。その向こうに、淡いピンクの彼女の下着が見えた。僕の視線に気づいた彼女は、今度はスカートを広げて、劇場の幕が上がるようにゆっくりと持ち上げた。ほっそりした足首から太もも、下着、それからへそのあたりまでがあらわになった。僕が日ごろ見たかったはずのものが、はっきりと目の前に現れていた。僕はそれでも不思議なほど冷静で、官能的というより美しいなんて思ってそれを眺めていた。彼女は恥ずかしがるでもなく、スカートをあげたまま、少し踊って見せた。動くたび、スカートの裾から雨水が飛び散った。
「生き物の脚と、お腹、あと、ちょっとした布」と彼女は自分の下半身を眺めながらつまらなそうに言った。
「なにもここには不思議がないことがわかったでしょ。だから、神崎君は、この先こんなありふれた場所に秘密を探さない方がいいよ。秘密はもっと別の場所に、もっとわかりにくい形で隠されてると思うから」
僕が黙ってうなづくと、幕はおろされた。

  ☆


 雨はそれからすぐに止み、僕らは青い水平線をひとしきり眺めて帰った。
 水口はその修学旅行の日以来、学校に姿を見せなかった。転校したとか学校を辞めて結婚したとか、いろいろな憶測が飛び交ったが、真相は誰も知らなかった。
 僕のローファーは、あの日から小さなガラスの粒がソールに食い込んで、歩くたびに堅い音が鳴るようになった。寝て、起きて、歯を磨いて学校に行って、部活をして、帰ってきて、テレビを見て、寝て、起きて……そういう日常の隙間に、堅い靴音だけが僕に何かを、思い出させようとしているようだった。
posted by おぎゃん at 00:46| 東京 ☀| Comment(0) | 中編小説(原稿用紙五〜数十枚) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月06日

気管支炎の話

お久しぶりです

なんか前回の投稿いつだっけというレベルなんですが、、、

大学院生の僕は夏休み真っ最中です。かといって研究しているかというとそうでもなくて、就職活動に浸かってはを突っ込んでは流れに脚をとられて、を繰り返しているうちに半分が過ぎてしまいました。
しかしそれはそれで収穫も大きくて、インターンをしたり、いろいろな方と話をしているうちに自分のやりたいこともそれなりに、前よりは見えてきた気がしています。

さて、先週も選考や旅行やらでばたばたしていたんですが、最後に大きな夏風邪をもらってしまいまして……先週末の金曜日には熱が39度まで上がり、のどはやすりにかけられたように燃えていました。
今年は、食中毒に、旅行先でのインフルに、激しい夏風邪と、本当についてないです。

風邪をうつしてきた張本人の友達が、「喘息性気管支炎になった」と言っていたので警戒はしてたんですが、僕もばっちり気管支炎になってしまいました。
咳で苦しむのがほぼ人生で初なのですが、本当にきついですね。夜寝れないのが特に、、、

特に咳がピークの時は、視線を動かすというトリガーだけで咳が出る気がしますw

今日は症状もおちついているので、のんびりすごしていました。
なにを思ったか、昔小学生だった頃に徘徊していたウェブサイトをもう一回見に行くということをしていました。
newというリンク先がつぶれていたりと、廃墟感がたまりません

だいたいつぶれてたんですが、リンクをたどっていくと更新はされてないけど結構まだ生きているところとかあって、
例えばこの「ギザじゅう」
一人で四万枚とかギザジュウ持ってる人いることに驚愕します
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/7932/

変な食べ物のサイト
写真が基本リンク切れなのであまり面白くないですね
http://zendoku.moe.gr.jp/

缶コーヒーのサイト
缶コーヒー飲みたくなってきます
http://www2s.biglobe.ne.jp/~avt/coffee/cafe.html

わけわからん味噌汁のレシピのサイト
キャットフードとかいれたりしてます
http://homepage2.nifty.com/mass/


2000年ごろのサイトがアプリ化されている例もあって!
「たのみこむ」
http://www.tanomi.com/
みんなの声を集めて商品化を求めるという面白いサイトだったんですね。

廃墟感たまりませんねぇ〜

とりあえず早く風邪と気管支炎を治します。
posted by おぎゃん at 15:02| 東京 ☀| Comment(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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